独立開業に至った経緯

 

 大学時代は様々なアルバイトをしたのですが、中でも『家庭教師』はとても楽しくできたので、良い思い出として心に残っていました。

 大学は工学部だったのですが、特にやりたいことが見つからず、とりあえず製造業が良いかなーと、軽い気持ちで神奈川県の会社に就職しました。なんとなく就職してしまったせいか、やる気が出なくて、仕事中は早く終業時刻がこないかなーとばかり考えていました。こんな日が続き、見切りをつけて辞めることにしました。

 3年で退職し、学生時代に過ごした街に戻り、またアルバイト生活を始めることに…。
もちろん、家庭教師もやりました。フリーター生活を続けながら、そろそろ実家に戻って働こうかと考え始め、ハローワークで『〇〇ゼミナール責任者候補募集』の求人を見つけて採用試験を受けました。
何とか合格して実家に戻ることに…。

 


 学習塾なら家庭教師の経験が活かせるので、俄然やる気が出てきて、自分なりに一生懸命仕事に取組みました。
田舎の地方都市で競合の塾も少ないこともあり、生徒数はうなぎのぼりに増えていき、ピーク時は生徒数120名に。
全国の〇〇ゼミナール約600校の中で、生徒数ランキング12位まで上がり、優越感に浸っていました。

 しかし、良いときは長く続かず、5年後には生徒が減りはじめ…。その頃からオーナーは人が変わってしまい、何かあれば責められる日々が続きました。

 雇われ塾長は、自分の決定権も少なくやりきれない思いを抱えながら仕事をしているうちに、いつしか「独立してやる」という気持ちが出てくるようになりました。学習塾の責任者として9年間勤務してきましたが、こんな状況に耐えられるわけはなく、給料などの待遇も良くなかったため、思い切って辞めることにしました。

 またもや家庭教師などのアルバイト生活となりますが、その頃から学習塾の独立開業を目指して、本格的に準備に取り掛かりました。約9年間、学習塾運営にかかわる業務はすべてこなしてきたので、「独立して成功する」という自信は、揺るぎないものがありました。

開業前の準備

 この頃は、つねに「こんな塾を作りたいなー」と考えながら行動しているので、自分で言うのもなんですが、とても生き生きとしていました。家庭教師も続けていたので、その生徒たちも新しい塾に来てもらうようお願いしていました。

 周りからは「学習塾で食っていけるのかー?」などの声もありましたが、不安よりも楽しさの方が勝っていたせいか、気持ちがブレることもなく思い通りの道を進むことができました。

 開業半年前から本格的に行動を開始。開業時の生徒数は13名になっていました。広告宣伝のノウハウがあるわけでもなく資金の余裕もなかったので、開業時のこの13名の保護者の皆様には本当に助けられました。

 学習塾を開業するにあたり、その半年前からの準備業務は次のようになります。


開業準備業務

  • 事業計画書作成
    開業1年前から、教室の構想をノートに書いたり、パソコンでまとめたりを繰り返し、毎日ちょっとずつ進めて半年かけて『事業計画書(A4で約20ページ)』を仕上げました。最後にまとめる際は、事業計画書作成のための教則本を参考にしました。

  • 開業資金調達
    自己資金はほとんど無く、国民金融公庫から融資を受けるための申し込みをしました。融資を受けるには、金融公庫担当者との面談があり、担当者に「この人なら返済できる。」と感じてもらう必要があります。その時に苦労して作成した『事業計画書』が役に立ちました。おかげで信頼を得ることができて、融資が受けられるようになりました。

  • テナント物件探し
    まずは、知人の不動産屋に聞いて15坪の物件を見学しました。この田舎街で家賃は15万円と高額なので断念。次に、家庭教師先の保護者の知人で、テナントを募集している人がいるとの情報を入手して20坪の物件を見学。板張りの床で、家賃は7万円で良いとのことに。大家さんの人柄も良さそうなので、そちらを契約することにしました。

  • 塾講師募集
    ハローワークに求人票掲載を依頼したところ、2名から応募があり採用決定。講師は、私立大学卒の男性1名,国立大学卒の女性1名の計2名で、塾運営をスタートすることにしました。この2名のうち女性講師は、人柄も良く熱心だったので、すごく助かりました。

  • 生徒募集
    まずは、業者に看板設置とチラシ新聞折込を依頼しました。余分に印刷したチラシは、知人のお宅や美容室を回って、置かせてもらうようお願いしました。家庭教師先の約10名は、塾を開業したら通うと言ってくれたので、生徒募集に関しては焦ることは無かったです。

  • 教室備品購入
    コピー機は、知人の事務機屋から中古品を購入。机や椅子は学校用だと小さすぎるので、通販サイトで探してサイズ感の良いものを購入。また、近くでフランチャイズの学習塾をやっていた知人が「塾を閉めるから必要なものは全部あげる」とのことで、黒板や長机など(10万円相当)を無料で頂きました。おかげで、開業経費が少し削減されました。教科書は地元の書店で購入。塾用の教材は雇われ塾長時代に知っていた教材会社と契約して購入しました。

開業経費一覧

  • 広告宣伝費 10万円
  • 教室備品(机,椅子など) 5万円 
  • コピー機代 10万円
  • 教材代 10万円
  • エアコン代 40万円
  • 消耗品費 3万円
  • テナント賃借料1か月分 8万円
  • 通信費1か月分 2万円
  • 水道光熱費1か月分 2万円
  • 講師給与1か月分 2万円

     合計 90万円

運転資金(半年間)

開業後は、生徒がすぐに急激に増えることは考えられません。そのため、半年間は生徒が増えなくても運営していけるぐらいの運転資金が必要となります。開業月の翌月からの5か月間の運転資金は次のようになります。


◇1か月分の固定費(賃借料など)×5か月=14万円×5か月

  合計 70万円



 開業経費+運転資金=160万円

したがって、開業するには最低160~200万円の資金が必要ということになります。
 

なぜフランチャイズをしなかったのか?

学習塾を開業する際の形態は、『フランチャイズ(FC)』と『個人事業』の2つがあります。しかし、私はフランチャイズで開業する気は全く無く、個人事業で開業する意志を貫きました。
フランチャイズのメリット・デメリットについては、自分の経験や知人の経験談から自分なりに解釈できていると考えています。

私の場合は、総合的に考察して「個人でやれる力がついてきたし、自分でやりたいようにできる。よし、個人事業でやりきってみよう!」と決断しました。

これから開業を考えている方には、総合的に考察してより良い判断ができるように、『フランチャイズ』と『個人事業』の特徴をまとめてみました。

  • フランチャイズ
    〇 ある程度知名度があれば、宣伝広告の効果が期待できる。
    〇 広告チラシは本部で大量発注するためコストが削減できる。
    〇 同フランチャイズ系列の塾同士で情報交換がしやすくなる。
    × 開業資金が高額になる。(加盟金、ロイヤリティなど)
    × 本部では地方の情勢に精通していないことが多い。
    × 本部の担当者次第では、良いサポートが受けられない。
  • 個人事業
    〇 自分の個性を活かした教室を作ることができる。
    〇 教室運営や学習指導の方針もすべて自分の意志で決めることができる。
    〇 信頼してお子様を預けてくれることが、教室運営の意欲につながる。
    × 開業時は知名度が無いので、軌道に乗るまでに半年~1年ほどかかってしまう。
    × 講師募集や生徒募集の際に、コストがかからないような工夫が必要になる。
    × 信頼が蓄積できないようであれば、3年程度で収益の見込みが途絶えでしまう。

以上、『フランチャイズ』と『個人事業』の特徴をまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?
『フランチャイズ』が一概に悪いわけではありません。自分の居住地と本部の距離が遠すぎず、本部の担当者が誠実で意欲的な方であれば、『フランチャイズ』でも十分に成功する可能性があるでしょう。